彼等のテスト前夜

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「トンネルを抜けたら…なんて何かのセリフでなかったっけ」

エンヴィーは、たった今自分がくぐり抜けたトンネルを振り返った。辺りは暗くなり始めていて、人気も少ない。
学校から電車で三駅のここに、エルリック兄弟の住むアパートがあることは知っていた。何度か家に行ったこともある(弟君もいるときだったが)。エドワードとリンはみっちり一晩、勉強を見てくれるらしいが。
なんてありがた迷惑な、とエンヴィーは気だるげに頭に手をやった。

「まぁこのトンネルは抜けたとこで寂れた住宅街しかないけどナ」
「おいリンさりげ失礼なこと言ってんな。悪かったな寂れててよ…あ、ちょスーパー寄らして」

前を歩くエドワードとリン。大分距離が離れていることに気付いてエンヴィーは小走りで二人の隣に付いた。

「スーパー寄るの?アイス買って」
「ガキかお前は。今日特売だから色々買ってかねーと。夕飯の材料もな」
「主婦カ」
「先行っててもいいぜ?鍵貸すから。エンヴィー道わかんだろ」
「道はわかる、けど…不用心だねー鍵渡したりしてさ」
「んじゃまぁ先行って物色させてもらうワ」
「え、ちょま、リン今物色っつった?」
「気のせい気のせイー。おら行くぞエンヴィー」
「はいはーい」

リンに答えるエンヴィーは、先程とは打って変わって物凄く楽しそうだ。そんな彼に若干複雑な表情でエドワードは鍵を預ける。からかい合ってはいるが、なんだかんだ信用はしているのだ。
だがキーチェーンを指に引っ掛けくるくる振り回しながら歩いていく後ろ姿に、エドワードは肩を落とした。物色とかそれより、落としそうで心配だ。
案の定、リンにすぐ取り上げられていた。
とか何とか思っている間に、リンとエンヴィーの背は遠くにある。エドワードは、苦笑いを彼らに一度送ってから、カゴを手にスーパーに入っていった。



「ってかリンもちゃんと勉強してんだね。いがいー」
「俺はお前のやる気なさにびっくりだけド。いっそすがすがしーワ」

てへぺろっといわんばかりに、ウインクに舌出しなエンヴィー。もちろんすぐにリンのツッコミの平手が飛んだ。

「あ、おチビさん家あった。あそこだよね?」
「確カ」

しばらく歩いた所でエンヴィーが指差したのは、中古感満載なアパート。エルリック兄弟の住まいは二階の角部屋だった筈だ。
自然と足早になった二人は、駆け足でその部屋に向かった。そして、鍵を差し込む。

「お邪魔しまース」

二人は遠慮なく扉を開いた。


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