So, we're gonna play a game together.

his name




人間というのは一度そうなってしまえば、たとえ心がついてこなくとも結構動けるものだ。
その場合大抵、まるで第三者のようにどこか覚めた目で自分を眺めているもう一人の自分がいる。

今がまさにそうだった。
目の前で非現実的なことが起きていて、そんな自分をもう一人の自分が見てる。現実感がないまま、まだ悪夢が続いているような気分で。
俺の前にいるのはこないだ戦ったばかりの相手だった。左手で長い髪を押さえ、ひざまづいている。
そしてこともあろうに――――――俺の性器を舐めている。

「……っ、」

強く吸われて、脚が一瞬、がくりときた。

エンヴィーがふと動きを止める。両手で俺の太股を裏から支えるようにして、上目遣いに俺を見た。くわえ込んでいたモノをずるりと出す。
長い、赤い舌。唇から糸を引く唾液をぬぐい、にやっと笑った。

「へへ…。気分、どう?」

俺はどう反応していいのか分からない。ただ、口を半開きにしたまま、呆然と見つめ返す。既に荒い、自分の息を他人事のように聞いた。
下半身の、唾液に濡れそぼったその場所が、屹立したまま外気の冷たさに晒される。いきなり刺激が消えたもどかしさで、心拍と共に、ズキズキと痛いような感覚が走った。苦しい。

「――――初めて?」

「…え、」

一瞬何のことを訊かれているか分からなかった。

「こういうことすんの初めて?って訊いてんだよ。」

「あー………」

「いーよ、答えなくて。もうわかったから。」

からかうかと思ったらエンヴィーはそれ以上何も言わず、目を伏せる。
そして俺の性器に、軽くキスした。
まるで何かの挨拶のようにさりげなく。

視界の中、すました端正な顔だちと自分の身体の一部。対比が強烈で、ちょっとくらっときた。





何だかんだで下半身どんどん脱がされて、ズボンが太股のところでひっかかってる状態だった。うっとうしいから、ついには自分で脱ぎ捨てる。上だけだと格好わるいから勢いでシャツも脱いだ。だいたい、相手は既に全裸だ。

向かい合って一瞬しんとなる。

町外れの倉庫で、穀物か何かが詰め込まれた麻袋が寝台代わり。手で押さえるとごわごわした繊維の下に雑穀の粒子が触れる感触。ロマンチックにも程がある。

「寒い?」

両腕で身体を抱き、一瞬ぶるっと身体を震わせた俺を見て、奴が言った。確かに全裸でいるには少し気温が低かった。機械鎧も冷えていく。だがそれだけじゃない。いざこうなってみると緊張がこみあげたのだ。だけどエンヴィーは、ああ、そっか、とまともに受け取る。

「人間は不便だね。」

そう言って鳥肌が立った俺の腕を二、三回撫でた。気温にも関わらずその指は変わらず温かい。こういうのも、石のエネルギーを使ってるからなのかな。ふと無関係な思考が頭をよぎる。
エンヴィーは床に落ちていた俺の赤いコートを拾い上げて、これ上にかければ、と手渡しくれた。その後、俺が座り込む傍らに長々と寝そべったかと思うと、流し目で手招きして言う。おいでよ。言われるまま相手の身体に覆い被さりながら、戸惑う。

「ん、どーしたの?」

「…いや、その、なんつうか…。」

突如生じた違和感を言葉にするのに少し手間取った。

「……その、俺が、男みたいにしていい……のか?」

我ながら変な表現だと思った。

いやだよと言われても困るし、その場合どうなるのか混乱してる頭では予想もつかない。だが、つい訊いてしまった。
すると面白い質問だね、と相手はますます楽しそうな表情をする。

「ヤられたい?なら、交代してもいいよ。攻めるのも好きだからさぁ。」

「…いや、遠慮しとく。」

さすがに即答し、促されるまま膝に手をかける。
だがどうぞと相手が脚を開いたところで、またもや俺は固まってしまった。

予期していたとおり、その身体は男でも女でもなかった。つまり文字通り――雌雄同体。
胸は平らで中性的な肢体。男性器らしきものもある。だけどその後ろの隠された場所、身体の中央には裂け目があるらしい、それだけはわかった。

だけど今の俺の戸惑いはそこではなかった。もっと基本的な、要は、初めてこういうことになった奴が直面するのと同じ問題………

(――どこがどうなってるのか、まるでわからん。)

エンヴィーのその部分は俺にとっては大分複雑な形をしていた。とっさに、女性のモノとほぼ同じだろうと考え、むかし錬金術の勉強のために見た人体解剖図など思い出す。
……が、断面図ばかり浮かんできて役に立たない。入り口すら分からない。

すると俺の態度をためらいと解釈して、赤い瞳が視線を投げてくる。

「珍しいだろ。人間でもたまにこういうふうに生まれるヤツがいるらしいね?」

「いや、珍しいもなにも………」

思い返せば俺は、弟と旅ばかりしてきた。同年代の友達もロクにいなくて、そっちの話題は疎いことこの上なかったのだ。

「…初めてだから、他と比べようがねえよ。第一、どこがどーなってるのか……」

弱気に語尾が消えてしまう。
ああやばい。何か今最高にかっこわるくないか?俺。

相手が目を丸く見開いて俺を見た。反射的に目をそらす。
すると、かわいいなあ、とからかうような、だが妙に楽しそうな声がした。

「そんな緊張しないでよ。初めてなら別に、そんなにうまくいかなくてもいいんだしさぁ。」

にゅっと無造作に腕が伸びて、俺の右手をとる。機械鎧の方だ。

「とりあえず教えてやるから、手貸して。」

そのまま自分のその場所に導こうとするから、俺は一瞬躊躇った。すると、どうしたの、びびってる?と訊いてくる。

「いや、こっちの手だと…」

お前の身体に冷たいだろ、と言おうとしてあまり意味がないのだと気づく。身体の熱の方が気温に勝つくらいなんだから。今、寒さを感じてて、機械鎧が体に触れてほしくないのは、むしろ俺の方だ。

「…こっちより、生身の手の方がいい。」

そう言って代わりに左手を差し出した。一瞬絡む、指と指。

最初に触れたのは男性器の方だった。不思議なことにイヤだという気はしなかった。ただ他人のをこんな風に触ったことなかったから、固さと熱さにどきりとした。
よく見知ったようで僅かに違う形。感触。奇妙だ。
そそり立った器官を根本までたどると、相手が微かに吐息を漏らす。ざらりとした薄い陰毛と微かな湿り気。導かれるまま更にその奥、もう一つの性を示す部分へと、分け入った。濡れた感触。初めて触れる場所。更にむき出しの体温に指が包まれ、息を呑む。

「痛っ!」

突然悲鳴が上がった。指を急に突っ込みすぎたようだ。

「あ…ごめん、」

「ほんっとに経験ないんだな、あんた。今まで勉強しかしてこなかっただろ。」

「ああその通りだよ、悪かったな。」

不躾な言葉に、俺も横柄な回答を返す。だけど緊張が少しほぐれた。

「…えっと、こう、か?」

「あ、うん…そう。その方向。」

何やってんだ俺は。それでも促されてゆっくりと動かす。

いつの間にかもう日は沈んでいた。
薄暗がりにも目が慣れて、視界の中、かすかな月明かりに青白い肌が鈍い輝きを帯び浮き上がる。

「指…もっと増やして。」

つぶやくのを聞いた。淡々とした口調だった。だけど見上げた赤い瞳が微かに熱を帯びて光ってる。言われるままに指をもう一本そっと押し入れると、何かをこらえるように少し苦しげに眉をひそめた。
その表情になんだかぎょっとして、思わず手が止まる。

「…何、じろじろ見てんだよ。」

「いや、お前、こんな顔してたっけ…って思って。」

これがつい数日前、戦った相手と同じだなんて何だか信じられない。リアリティが保てなくなってくる。
これは一体何なんだ。目の錯覚?それとも…

するとエンヴィーが言った。

「は…?別に変身してないよ。」

「いや、そういう意味じゃなくて、何か……印象違う。いつもと。」

一瞬ぽかんとされた。だがすぐその後に勝ち誇ったような声。

「はっはぁ、見とれたわけだ。」

「…な、違…」

反論したが、頬はかっと熱くなる。急に身体も汗ばんだような気がした。寒いはずなのに。くそ、なんだこれ。

だが相手は俺の言い分など聞いていなかった。くすくす喉の奥で笑ったかと思うと身を起こし、俺に抱きついてきたのだ。少し強引な位の力で引き寄せられ、二人とも横たわる姿勢になる。肉に埋められていた指が抜けた。
胸と肩に長い髪がからみつく感触。頬を寄せるようにして、くぐもった声で囁くのを聞く。

「…ガキのくせにやらしいこと言うなぁ、あんた。」

何がやらしいことなのか、全然よく分からない。だが耳元に寄せられた唇が熱い。触れた肌から相手の照れ笑いのような気配が伝わってくる。何だか煽られた。妙にくすぐったい気分になった。

と、そのときだ。相手の身体がふうっと俺に覆い被さるように動いた。潤んだ瞳の目尻に艶。俺を見下ろし、言う。

「もういいよね?」

「え、」

「しようよ。今すぐ。」

ちらりと舌先が唇を舐めるのを見た。先ほどと形勢が逆転する体勢に俺の身体は緊張する。

「そんな心配そうな顔しないでよ。さっき言ったとおりにするからさ。」

そう笑うと、俺のをその場所にあてがう。どこか性急な動作で。

「…あんたはただ気持ちいいだけ、だよ。」

先端に生暖かく、濡れた感触。めりこんでいく。


遊びだよ、楽しい遊び。


呑み込まれた瞬間、声が出た。





【作者後記】
前戯だけで長々と一話消化…あれ?
エドはともかくエンヴィーはとりあえず愉しくてノリノリだろうという勝手な妄想をしながら書きました。初体験者に割とやさしいエンビたんというあたりには作者のドリームがばっちり入っていますが。
エドは何だか反応が理系ちゃんな感じになってしまいました(理系選択の方、偶然見てらしたらごめんなさい)。あれでも一生懸命頑張っているのです。きっと…。

ちなみにこれを書いてる時点では、あと3日でハガレン本誌最終回ということになってます。
9年の連載の最終回…私は2008年頃からのファンですが、でも感慨がありますねー。
もっと最初の頃から見てらした方は本当に感無量という気持ちでおられることと思います。
記念すべき瞬間が近づいているのだなあ…。

というわけで、このタイミングにセクロスしかしてない話ですいませんなのですが、もう少しだけ続きます。(2010/6/8)