彼等のテスト前夜

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テスト。このたった三文字の言葉に世の学生が翻弄されるのは周知の事実だろう。

勿論例に違わず、エドワード達の身にもそれは振りかかってくるわけで。
エドワードは、手帳にガンを飛ばしてから、はぁっと溜め息を吐いた。
テストは明日。勉強していないわけではないので焦ることはないが、やはり憂鬱になる。
ここでうだうだしていても仕方ない。全く聞いていなかったホームルームが終わり、エドワードは立ち上がった。

「リン、帰ろうぜ」
「はいはいちょっと待っテー」
「ねー僕も一緒に帰るから」

隣の席のリンに声をかけたエドワード。そうすれば自動的にリンの隣のもう一人がおまけについてくるのもいつも通りだ。
荷物の整理をしているリンの横を通り越してエンヴィーはエドワードの前、教卓に腰を下ろした。エンヴィーの長い黒い髪が風になびく。髪の間から時折覗く耳では大小多数のピアスが揺れていた。

「わーってるよ…つかあれ、エンヴィーお前いつきた?」
「6時間目」
「お前今日の6時間目って空き時間だロ。来た意味ないナ」
「うっさいなー。来ただけ褒めてよ」
「ったく呑気なもんだぜ、テスト大丈夫なのかよ」
「…テスト?」

軽い口調で、からかっただけのつもりだったエドワードだが。
想定外に、エンヴィーはまるで初めてその言葉を聞いた子どものように、オウム返しにそれを繰り返した。
数秒の、沈黙。
しらけた空気を取りつくろうようにリンがまたことさら明るく口を開いた。

「ほらエンヴィーなーにぽかんとしてんだヨッ!」

リンはぺしぺしとエンヴィーを軽く叩きながらごちゃごちゃと絡んでみる。
が、エンヴィーの視線はホームルームで担任の教師が書いたままにっている黒板に移っていた。
そして、エンヴィーはポンと手を合わせた。

「ああ、学校のテストね!あー分かった分かった。明日からとか今初めて知ったー」

あははーとからから笑うエンヴィー。
今度はリンとエドワードがぽかんとする番だ。

「いやぁ学校来たの自体久しぶりだし。てか授業なんていつから出てないかな」
「俺頭痛くなってきた…」
「奇遇だなエド、俺もダ…てかもうやだこいつ馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿だとハ…!」
「あー涙出てきた…」

なんて引きつった顔で遠い目をする二人をよそに。エンヴィーは教卓の上で携帯をいじっていた。

「あ、総下校だしそろそろ学校出ねーと」
「…エンヴィーどうするヨ」
「このままにしとくのもあれだし…しゃーねえ。勉強少しは見てやるか。放置してた俺達の責任ってことで」
「ははっ保護者かヨ」
「ねえ帰るんでしょ?何してんのさ二人して…っ!?」

教卓から飛び下り、エドワードとリンの前にエンヴィーは立った。
瞬間、ガッと二人の手がエンヴィーを掴む。

「「ちょっと付き合え/エ。勉強見てやる/ル」」
「…僕今日は別の道で帰ろうかな」

なんて呟きも虚しく。
エンヴィーはそのままずるずると二人に連行されて行った。


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