we used to talk, laugh and have fun.....to hide what is essential.
his name
1.
地獄の底から戻ってきたような午後だった。いや、帰ってきたつもりが更なる深みにはまりこんでいたのかもしれない。
あの日俺たちはいつの間にか敵のアジトの奥深く、ど真ん中に導かれ、派手に一戦かました気でいた。しかし現実は厳しい。まるで歯が立たずにあしらわれ、旅の道連れを一人失っていた。そればかりか、俺と弟だけは人柱だとか何とかいう理由で妙に丁重に扱われ、今にも釈放されようとしていたのだった。殆ど屈辱的な事態。
首根っこを掴まれるように案内され、今は弟と二人、軍の施設のシャワー室にいる。
全てがめまぐるしく一瞬のうちに起きて白昼夢の中に居るみたいだった。
下着姿のまま服を手に取りため息をつくと、背後から横柄な声が飛ぶ。
「さっさと支度しろよ。ラースがお前達を待ってる。」
振り返ると、せっかちなホムンクルスと目があった。いつもの少年のような姿ではなく、軍の施設向けに背の高い金髪の軍人に化けている。さっきまで巨大な竜の化け物みたいな形だったくせに今は跡形もない。そして無粋にも裸同然の俺たちの側で、早くしろとしつこく急かしてくるのだ。
溜息をつき、特に深い意味はなく俺は言った。
「便利だな、いろんな姿があって。」
すると突然、閃光がまたたき、錬成の光と共に見慣れた姿が現れた。長い黒髪に細身の身体。太腿にあの、ウロボロスの入れ墨。
「そうだよ、お前ら下等生物とは違うんだ。」
意味もなく浅い笑みを浮かべ、いつもの余裕ぶって人を小馬鹿にしたような口調で言う。しかし何故だろう。見下すように肩をそびやかした表情に、微かにだが、焦燥と不機嫌さが混じっているように感じた。
だからだろう。ちょっとからかいたくなった。
「確かにな。迫力あったぜあの姿。いいもん見せてくれてありがとよ。冥土のみやげにならなくてよかったぜ。」
俺たちがあの場所――グラトニーの中――にいる間、外の世界でどのくらい時間が経っていたのかは正確に知らない。だがいずれにせよ全くありがたくもない偶然から、俺はリン・ヤオと共に随分と長い間エンヴィーと顔をつきあわせていた。結果、いわゆるこいつの「本当の姿」を見たばかりでなく、それまで知らなかった素顔みたいな部分にも否応なく気づかされてしまっていた。例えばこいつが己自身の「本当の姿」を嫌悪しているらしいことも、今はなんとなくわかっている。
だから下等といわれたお返しに軽い気持ちで嫌みを言ったわけだ。
狙いは当たった。俺の言葉に、チッと舌打ちする気配と共に相手は不愉快さを露わにする。こいつ、わかりやすい。
「あーあ、むかつくよなぁ。この嫉妬の本当の姿を見て、生きて帰ってきた人間はいなかったのにさ。」
ボリボリと大きな動作で頭をかいて身じろぎする。苛立たしげに、はぁ、とため息をついた後、きっと目線をあげた。
「生かされてる身でよかったね!幸運に思いな。」
最後の言葉は低い声で吐き捨てるようだった。口元は笑みの形に留まっているが目線は鋭く、威嚇するように身を乗り出してくる。友好的でないムードに、途端、空気が緊張した。
傍らのアルが動こうとするのを俺は制し、苦笑いを浮かべる。
「むかつくのはお互い様だろ。人との約束あっさり破りやがって。俺がいなきゃお前、あそから出られなかったんだぜ。」
実際俺は怒っていた。こっちはお父様とやらの計画を話すことと引き替えにグラトニーの腹の中から脱出する術を教えてやったわけだが、助かった途端こいつは即座に約束を破りやがった。
「は、下等生物との約束なんて知るかよ。」
そう言いながらも、あまりこの問題を突っ込まれたくはないのだろう。エンヴィーは身を引き、きびすを返そうとした。だが、ふと思い直したように立ち止まり、振り返る。
視線を感じた。それも凝視に近い何か。
一メートルも離れていない至近距離、こっちは下着の他つけておらず、相手はいつもながらの隠すところの少ない衣服をつけている。
身体を、見られてる。そう意識した瞬間、何故かじりりと身体が泡立った。それは単純な不快感とも違っていた。身体の内側から何かがひっかかれたような、とてつもなく妙な感じ。同時に、目の前に立つその肉体の存在感を意識した。
気持ち悪ぃ。
俺は顔をかすかにしかめた…のだと思う。だが、そのときだった。目の前の相手の面に奇妙な余裕が漂い、にやりと薄い笑みが浮かぶのを見たのだ。些細な一瞬の表情の変化。だが強烈な違和感に、俺は動けなくなる。
「な…なんだよ。」
別にぃ、と相変わらずにやけた顔が答えた。語尾をのばしたその台詞が妙に耳につき、脈絡もなく、くだらないことを思い出す。そういえばさっきこいつに全裸見られたな。うわ、何考えてるんだ俺。とっさに考えを打ち消した。だけど身体の違和感が強くなる。
「そうだよねぇ、おチビさんは知りたいだろうなぁ、って思ってさ。色々と。」
不自然に明るく歌うような調子がカンに障った。間違いなく何かよからぬことを企んでいる様子だ。警戒感のゲージが俺の中でじりじりと上がっていく。
するとエンヴィーは肩をすくめて、妙にさわやかな声を出すのだった。やだなあ、そんな警戒しないでよ。そして片手を口に添え、そっと囁いた。
「ほんっの少しだけなら…教えてやってもいいかなって思ってさ。」
え。
「セントラル第三地区、廃工場の側に倉庫があるだろ。」
ああ、と低く俺は生返事。次の瞬間、耳の側に続きの情報。
「三日後のこの時間、そこに来い。いいもん見せてやる。」
そう言うと、そのまま俺とすれ違うように歩を踏み出した。長い髪が鼻先をかすめ反射的に目をつぶる。
俺が呆然と振り返ったとき、奴は戸口の方に向かいながら再び軍人姿に戻った後だった。
つづく
【後記】
まったり連載していく予定です。連載他に止まったままのがありますが、タイミング的についエドを出したくなってしまいました。
えっちな展開になる予定です。エドエンで襲い受けです。要は、原作14巻から16巻までの間にエドとエンビの間にえっちなことが起きていた。だけど周りは誰も知らないし二人とも誰にも言わなかった、という妄想話です。
…ってここまで書いちゃうともうあらすじ全部バラしてるようなもんですが。まあ、原作とどの辺までかみ合うように書けるかトライってことで(しかし細かいところで既にミスがありそうな予感…(汗))。
あ、もちろん23巻の展開も念頭に入れています。
終わりはちゃんと考えてあるので淡々と一週間〜十日おきくらいに話を進めていこうと思ってます。
同時に他の連載も頑張ります。ほんとうです(←(2010/5/5)