you know what? everytime I see you....i feel burned.
spiritual pain
すきだよ、と言った途端それは起きた。
「言っただろ。そういう話は興味ないんだ。」
「…それよりさあ、どうせだから、もっと楽しいことしようよ。」
「?」
にっこりと口元は微笑み、頬は上気していて、
だが見据える瞳は鋭くて、
きらきらと、奇妙な熱気を帯びて光っているのだった。
答える間もなく気がついたら地にふしていた。
背に残る痛みに、蹴りたおされたと気づく。
くみしかれた瞬間、何ともいえない思いに胸を貫かれた。
怒りではなく、
恐怖でもなく、
――――悲しみ。
わかったからだ。
通じないということ。
どうやっても、何を言っても、
言葉が届かない。
蹴られた背中が痛い。
押し付けられた頬が冷たい。
――ねえ、これでも愛せる?
無言の問いに答えることも出来ず、
「……………………。」
出来たのは、受け入れることだけだった。
*
身体は痛かった。
自分の声じゃないみたいなすごい悲鳴が出た。
抉られ、裂ける。そのうち部分的に麻痺、痙攣。押さえつけられ、揺さぶられ、床に金属のすれる音。
うつぶせて必死で耐える。すると奴は覆い被さったまま後ろからぐい、と髪の毛つかんでこっちの頭を持ち上げようとするんだ。
何だ、顔が見たいのか。いやらしいやつ。
「ねえ、今、どんな気分?」
訊いてきた。
「痛ぇよ…。」
答えてやったが虫の息みたいになってて、喉は枯れてカラカラ。
「おチビさんは――初めて?」
最初意味が理解できず、息も絶え絶えに考える。
初めて?
初めての何だ。
「痛い?かわいそうだねえ。初めてなのに。」
ああそうか、性交。
「でもどうしようもないよねえ。馬鹿なことを言うんだもの。」
「だからこういうことしたくなっちゃった。」
「…ねえ、知ってる?おチビさん。残酷なことって……起きるんだよ?」
(人間、絶望を教えてやる。)
「すきだなんて言っちゃって、やさしくされると思ったら大間違いなのさ。」
(これから先、思い出すたび、最初の記憶は血の色。)
再び深く侵入され、思考がとぎれる。うめき声が出た。
初めて?
――――いや。
違う。強烈な既視感。でもどうして。
髪の毛をつかむ手が離れた瞬間、わかった。
似てるのだった。
似てないはずなのに、全然違うはずなのに、つながる記憶。
神経を接続するときの、内側から蝕まれるような、あの、
外からの痛みとは明らかに違う、苦しみ。
(それが毎度、ひそやかな罪と恥辱の意識をはこんでくるからだ。)
(皮膚と神経じゃない、もっと奥、深い部分が灼けただれたように、疼く。)
(何度も何度も、そのたびに新しく繰り返す。)
突然、笑いたくなる。
そうだ、俺はこれを知っていた。
全然違う形で、だけど知っていたんだ。
体は無垢なのに、もう侵されていた。知りすぎていたのだった。
魂の、痛みを。
相手が動きを止める。様子をうかがう。
「あれ、何だ。笑ってんの?」
問いには答えない。
「…いやがってたくせに、ヤられて、よくなっちゃった?」
答えずに、ただ、痙攣するように笑い続ける。
喉の奥、むせて咳き込んで、
最後には少しだけ、涙。
「…ちぇ。」
何の舌打ちなんだろう。
目を閉じたまま、濡れた頬を晒していた。
すると近づく気配。
泣き顔、舐められた。
ゆっくりと生暖かく、まるで口づけるように。
(本当は、食べてしまいたかった。)
*
いつまでも全ての記憶が鮮やかなお前とは違い、時は人間を遠くへと運び去る。
例えそれが絶望であっても、いつかは遠くなる。
だから時が経ったとき、俺は全てを振り返り、こう思うだろう。
あのとき俺にお前が教えたのは、お前自身の絶望だった。
俺が感じた痛みは、お前がもっとずっと、よく知っていた痛み。
お前にとって世界は残酷でなければならず、優しさは裏切りで返されねばならなかった。
憎み続けるために、復讐し続けるために。
それほどまでに、お前が身の内に抱え育んできた世界への憎悪は、苦しみは深かった。
そして、ついにはそれが、お前自身をも消し去ってしまった。
END
「雑念手帳」からの再録です。再録にあたりタイトルを改称しました。
オリジナル:2009.12.26,Sat Upload(douleur spirituelle)
再録:2010.4.25