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愚者の救済


造ったくせに捨てた男。
現実から目を背け、あまつさえ人間の女に束の間安楽すら求め、どこまでも逃げ続けた愚か者。
ひたすらに憎み、そこから地獄が産声を上げた。
続く修羅の記憶、たぎる憎悪と嫉妬の軌跡、それこそが僕の存在証明。

そうだ忘れるため生きていた。
自分が生まれた理由を。
そのために滅ぼそうとした。
人間を、あんたを。

狂おしいほどに焦がれ求め、門をくぐり追いかける。まるで何かの恋物語のように。
精神が壊れ古城に一人、異形の者として在るようになっても待ち続けた。


憎んでいたんだ。だから相まみえる時を望んでいた。
怪物になり力を蓄えた。いつでも一撃で息の根を止められるように。
挑んで戦って倒して、そして忘れるんだと思っていた。

夢見ていた。切り裂き引き倒し屍を見下ろして、お前は過去だと死に顔に勝ち誇り、永遠に記憶ごと葬り去る日を。
父と子なんてそんなもの。愚かな人間どもが遙か太古から繰り返してきたドラマ。
その真似事を夢見てどこが悪い?だから追いかけた。



それなのに、


身動きも出来ず、意識すら危うい中、かみ合わせた牙と牙。
溢れた熱い血は誰のもの?

なあ、頼むから戦わせてくれよ。

扉を錬成する。響いた声。
注がれる眼差しはまっすぐにもう一人の息子へと。
微笑みながら異形となった僕の頬を撫で、力を込めた。

別れの言葉もなく成り行きのまま、ただ貪れば身体が輝き、印が浮き上がる。
生まれたのは何のため?
身体を縛り付けられたまま問うことも許されず、最後の叫びも出なかった。



勝手に造られ棄てられて、今もわけが分からぬまま光へと還される。

これは何の報いなのか。


憎しみの代償、それとも、ただ生きようとしたことの?









ああ、だけど、






(まばゆさ、満ちる。悲しい悟り。)







本当は、知っていた。
全てを忘れるためのもう一つの方法。




それは、この僕自身が――――滅びること。

殺しても殺しても死なないこの身体、その存在ごと葬り去ること。


消滅という名の救済。
完全なる安寧。
無。




本当に、何という皮肉。どうしようもない。



それをくれたのが、父さん、






………………あんただなんて。










END





【作者後記】

第一期アニメ版エンヴィーで父子関係妄想です。
もう多くの作家様が書かれているので何を今更感がありますが、シャンバラを観た後、私もやはり色々考えまして。
この方法しかなかったのか?…なかったのかなあ、うーん。この二人じゃあ…まあ、そうなのかなあ…でも…………という気持ちがあったので、書いてみました。

そしたら「やっぱこうなるしかなかったかなあ、すれ違いだなあ」バージョンになってしまいました。あとはやっぱ…とことん詩的ではない。そのまんま感情むき出し系。「父と子が殺し合う」なんてもうどんだけエディプスコンプレックス。

いや、しかもそれだけでは収まらず、勝手に妙なエロスを感じてしまう始末。だって…追いかける蛇(正確にはリヴァイアサンだけど)って…エロいよ。日本の怖いお伽噺みたい。
ほら、あるじゃないですか。娘が恋いこがれて坊さんをおいかけて、拒絶されるもんだから最後には憎さ余って蛇になりどこまでも追いかけて…みたいな話(←またそんな方向に…)

…いやいや、もっと「和解」路線で、素晴らしい物語を書いておられる作家様もおられて、エンビのためにはその方がいいような気がいたします…はい…。

タイトルは、「愚者(ホーエン)による」救済(のつもりでやったこと)とも、「愚者(実はエンヴィーのこと)に対する」救済とも取れるけど、その辺は曖昧な感じでいいかと。

まいど後書き長いですね…。そういうことで、どうも失礼しました〜
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