あんたといるようになってから自分が意外に饒舌だと知ったよ少なくとも頭の中では。表面上さほど変わらないのがよく考えればまるで奇跡。
ずっとずっと演じ続けているんだ姿も変えながら他人の人生を。そのどの部分が自分でそうでないとかどうでも良いと思ってたしむしろその方があるべき姿。
だけど夕焼け、一人、溢れることば。安定感が揺らぐ。
触れて交わりおかしくなった。いかにも偽物でしかない肉体が伝える情報の氾濫とそれを介して捉えられる自分らしきもの。
数多くの魂を纏い背負って生まれた。
我、僕、わたし、俺、目をつぶればいつだって不定形の自我がぐるぐると回るのに、その手の感触に震えた身体はたったひとつ。
見せたのは身体だけじゃない。例えば初めてあんな風に声をあげて泣いた。誰にも見せたことのない何かをそのとき晒したとわかった。演じ続ける自分とそうでない部分、自分でも境目などわからないのに生まれる確信にぎょっと立ちすくむ。
求められる。それは確かに気持ちのいいことだった。目を閉じて他のことを忘れたくなった。だけど無理な相談、だいたい可愛がられてちゃだめなんだよ、あんだけやることやってこれからも課題が山積み。頭の中でした声は誰のもの?
綺麗なカラダを着て頭を撫でられすっかりその気になった。そんな自分がいやになる。
背を抱かれ安楽な慰めを得ても解決しないって知ってる。
(…愛されたい?)
(とんだお笑いぐさだぁ…)
(苦笑。)
手に入らないモノを追いかけているんだ。ずっと前から薄々気づいていた。
あんたみたいに全てを欲しいなんてシンプルでいられない。
交わした肌の熱さにどれだけ浮かれていても既に予感。
この男は自由を求めすぎる。
その身に宿した欲もろとも、人間どもに染まりすぎている。
いつの日か二人裏切り裏切られ打ちのめされるだろう。
……多くの命を背負って生まれた。
その重さを、あんたはわかっているのかな。
自由、限界の裏返し。脆く儚く生まれた人間どものせめてもの慰め。
明日をも知れない虫ケラだから、全てから解き放される夢を見る。
同じものを求めて何になる?
幾千もの魂、犠牲を経てここにいるのは、人間達の真似事をするためじゃない。
我々にしかできないこと、築き上げるべき未来がある。そのために生まれた。
だけどあんたは理解しない。
結局、戻ってくるのは一つの結論。
のうのうと安楽に生きることも、死んで全てを忘れることも出来ないんだ。
それは宿命。他と違う存在ということ、役割があるという事実の代償。
こうして生まれたその誇りと矜持だけを胸に、姿を変え声を変え、地を這いずり続けるしかないのさ。
例え慣れ親しんだ仲間達が消え、この身が何度砕かれようとも、
約束の時が来るその日まで、ずっと。
END